⟐ 数学の作り方 How to make Mathematics

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第4章 分解体

多項式の「全部の根」を、一つの体に集める

x3−2x^3-2 の根は 23, ω23, ω223\sqrt[3]2,\ \omega\sqrt[3]2,\ \omega^2\sqrt[3]2(ω\omega は 11 の原始 33 乗根)。Q(23)\mathbb Q(\sqrt[3]2) には実根 23\sqrt[3]2 しか 入らず、複素根は外にある。全部の根を含む最小の体を作らないと、方程式の対称性(根の入れ替え)を語れません。 その体が分解体です。

分解体は、ガロア理論の主役です。方程式のガロア群とは「分解体の自己同型群」——分解体の中で根をどう入れ替えられるか、 の群だからです。この章では分解体を定義し、それが必ず存在し(根が無ければ作ってしまう)、しかも 同型を除いて一意であることを証明します。とくに一意性の証明で使う「同型の延長定理」は、次章以降の 正規性・ガロア理論の議論で繰り返し使う基本技術です。

分解体 = 多項式が一次式の積に分解する最小の体。存在(根を作って添加)と一意性(同型の延長)が成り立つ。

根の存在(クロネッカー)

まず「どんな多項式にも、どこかに根がある」ことを保証します。根が無ければ、剰余環で作ってしまう——環論の発想です。

定理 クロネッカーの定理

体 KK 上の任意の非定数多項式 ff に対し、ff が根をもつような KK の拡大体が存在する。

証明

ff の既約因子 p(x)p(x) をとる(K[x]K[x] は UFD)。L=K[x]/(p)L=K[x]/(p) は体(pp 既約 ⇒ (p)(p) 極大、環論第4章)で、 KK を部分体として含む。α=x mod p∈L\alpha=x\bmod p\in L とおくと p(α)=p(x) mod p=0p(\alpha)=p(x)\bmod p=0、すなわち α\alpha は pp(ゆえ ff)の根。∎

R[x]/(x2+1)≅C\mathbb R[x]/(x^2+1)\cong\mathbb C で ii を「作った」(環論第2章)のと同じ手口です。根が無いなら、多項式を割って 新しい体を作り、そこに根を住まわせる。これを繰り返せば全根を添加できます。

分解体の定義と存在

定義 分解体

KK 上の多項式 ff(次数 ≥1\ge1)に対し、ff が一次式の積 f=c(x−α1)⋯(x−αn)f=c(x-\alpha_1)\cdots(x-\alpha_n) に分解し、かつ L=K(α1,…,αn)L=K(\alpha_1,\dots,\alpha_n)(全根で生成される)となる拡大 L/KL/K を、ff の分解体という。

定理 分解体の存在

任意の f∈K[x]f\in K[x](次数 n≥1n\ge1)は分解体をもち、[L:K]≤n![L:K]\le n!。

証明

nn に関する帰納法。クロネッカーで ff の根 α1\alpha_1 をもつ拡大 K1=K(α1)K_1=K(\alpha_1) をとる([K1:K]≤n[K_1:K]\le n、最小多項式の次数)。 K1K_1 上で f=(x−α1)gf=(x-\alpha_1)g、deg⁡g=n−1\deg g=n-1。帰納法の仮定より gg の分解体 L/K1L/K_1 があり [L:K1]≤(n−1)![L:K_1]\le(n-1)!。LL で ff は 一次式に完全分解し、L=K(α1,…,αn)L=K(\alpha_1,\dots,\alpha_n)。塔の公式より [L:K]≤n⋅(n−1)!=n![L:K]\le n\cdot(n-1)!=n!。∎

「根を一つ添加して次数を下げ、残りに帰納法」。次数の上界 n!n! は、nn 個の根を順に添加する各段の次数の積で、 対称群 SnS_n の位数と一致します——分解体のガロア群が SnS_n の部分群になる伏線です。

同型の延長と一意性

分解体の一意性を示す鍵は、「基礎体の同型を、分解体の同型に延長できる」という定理です。これはガロア理論の心臓部の技術で、丁寧に証明します。

定理 同型の延長定理

体同型 σ:K→K′\sigma:K\to K' が多項式 f∈K[x]f\in K[x] をその係数に施して f′∈K′[x]f'\in K'[x] に写すとする。LL を ff の分解体、L′L' を f′f' の分解体とすると、 σ\sigma は同型 σ~:L→L′\tilde\sigma:L\to L' に延長できる。しかも、その延長の個数は高々 [L:K][L:K] 個。

証明

[L:K][L:K] に関する帰納法。L=KL=K なら自明。L≠KL\ne K なら、ff の根 α∈L∖K\alpha\in L\setminus K をとり、その KK 上最小多項式 pp(ff の既約因子)を考える。 σ\sigma で pp は p′∈K′[x]p'\in K'[x](f′f' の既約因子)に写る。p′p' は L′L' で根 β\beta をもつ。K(α)≅K[x]/(p)K(\alpha)\cong K[x]/(p)、K′(β)≅K′[x]/(p′)K'(\beta)\cong K'[x]/(p') で、 σ\sigma が p↦p′p\mapsto p' を与えるので、同型 K(α)→K′(β), α↦βK(\alpha)\to K'(\beta),\ \alpha\mapsto\beta(σ\sigma を延長)が作れる(第2章の共役の同型)。 LL は ff の K(α)K(\alpha) 上の分解体、L′L' は f′f' の K′(β)K'(\beta) 上の分解体で [L:K(α)]<[L:K][L:K(\alpha)]<[L:K]、帰納法の仮定より K(α)→K′(β)K(\alpha)\to K'(\beta) は σ~:L→L′\tilde\sigma:L\to L' に延長できる。個数:p′p' の相異なる根の個数(≤deg⁡p\le\deg p)×帰納法の個数 ≤[L:K]\le[L:K]。∎

証明の要は、根 α\alpha をその共役 β\beta(p′p' の根)に写す同型を作り、段階的に延長すること。「基礎体の対称性は、 分解体の対称性に持ち上がる」——この持ち上げが、K=K′K=K' のときガロア群の元を生みます(第8章)。一意性は系です。

系 分解体の一意性

KK 上の多項式 ff の分解体は、KK を固定する同型を除いて一意。

証明

σ=idK\sigma=\mathrm{id}_K(K=K′K=K'、f=f′f=f')に延長定理を適用。ff の2つの分解体 L,L′L,L' に対し、idK\mathrm{id}_K が同型 L→L′L\to L' に延長でき、 これは KK を固定する同型。ゆえ L≅L′L\cong L'。∎

「分解体は本質的に一つ」——だから「ff の分解体」と定冠詞で呼べます。x3−2x^3-2 の分解体は Q(23,ω)\mathbb Q(\sqrt[3]2,\omega)、次数 66 (実根と ω\omega を添加、3×23\times2)で、そのガロア群が S3S_3 になります(第9章のインタラクティブ)。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 分解体は「全根を含む最小の体」。 一つの根だけでは足りない(Q(23)\mathbb Q(\sqrt[3]2) は x3−2x^3-2 の分解体でない、複素根が外)。全根で生成する。
  • 存在は根を作って添加。 クロネッカー(K[x]/(p)K[x]/(p) で根を製造)を繰り返す。次数は高々 n!n!。
  • 一意性は同型の延長から。 「基礎体の同型が分解体の同型に延長できる」が心臓。idK\mathrm{id}_K の延長が2つの分解体を結ぶ。
  • 延長の個数が [L:K][L:K] に届くかは分離性次第(第7章)。ちょうど [L:K][L:K] 個になるのがガロア拡大の特徴。

この章のまとめ

  • クロネッカーの定理:K[x]/(既約因子)K[x]/(既約因子) で根を作れるので、任意の多項式はどこかで根をもつ。
  • 分解体(全根で生成される最小の体)は、根を一つずつ添加して存在し([L:K]≤n![L:K]\le n!)、同型の延長定理により同型を除いて一意。
  • 同型の延長定理(基礎体の同型 → 分解体の同型、個数 ≤[L:K]\le[L:K])は、正規性・ガロア群の議論の基本技術。x3−2x^3-2 の分解体は Q(23,ω)\mathbb Q(\sqrt[3]2,\omega)、次数 66。

次章は、すべての代数方程式が解ける究極の拡大——代数閉包と、定規とコンパスの作図可能数を扱います。