数学の作り方 How to make Mathematics

第7章 反転公式とプランシュレルの定理

変換の「往復」を完成させる

フーリエ変換 ff^f\mapsto\hat f は、ff を振動数スペクトルに分解しました。当然、逆——スペクトルから元の関数を 復元したい。それが反転公式 f=f^ˇf=\check{\hat f} です。前章の近似単位元がこれを可能にします。さらに、 L2L^2(エネルギー有限)の枠で見ると、フーリエ変換はエネルギーを完璧に保つユニタリ作用素になる。これが プランシュレルの定理で、フーリエ変換が最も美しい姿を見せる場所です。

フーリエ変換は L2L^2 上でエネルギーを保つユニタリ作用素。反転で往復が閉じ、プランシュレルで変換が完成する。

反転公式

定理 フーリエ反転公式

fL1(R)f\in L^1(\mathbb R) かつ f^L1(R)\hat f\in L^1(\mathbb R) なら、ほとんどいたるところ(ff が連続な点で確実に)

f(x)=12πf^(ξ)eiξxdξ.f(x)=\frac1{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}\hat f(\xi)\,e^{i\xi x}\,d\xi.

ff を「あらゆる振動数の波 eiξxe^{i\xi x} を、重み f^(ξ)\hat f(\xi) で重ね合わせたもの」として復元する。

証明

逆変換積分にガウス因子を挿入して正則化する:Iε(x)=12πf^(ξ)eεξ2eiξxdξI_\varepsilon(x)=\frac1{2\pi}\int\hat f(\xi)e^{-\varepsilon\xi^2}e^{i\xi x}d\xif^=f(y)eiξydy\hat f=\int f(y)e^{-i\xi y}dy を代入しフビニで ξ\xi 積分を先に行うと、ガウス積分により Iε(x)=f(y)gε(xy)dy=(fgε)(x)I_\varepsilon(x)=\int f(y)\,g_\varepsilon(x-y)\,dy=(f*g_\varepsilon)(x)、ここで gεg_\varepsilon はガウス近似単位元 (前章)。ε0\varepsilon\to0 で左辺は f^L1\hat f\in L^1 より逆変換積分に収束、右辺は近似単位元の性質で f(x)f(x) に収束。∎

証明の要は「逆変換積分をガウスで正則化 → 近似単位元との畳み込みに帰着 → 極限で ff を回収」。前章で仕込んだ 道具がそのまま働きます。反転公式により、fff^\hat f同じ情報の二つの表現——時間領域と振動数領域——だと 分かります。どちらから見ても同じ関数。

注意 フーリエ変換の対称性

反転公式は変換と逆変換がほぼ対称(符号と 2π2\pi だけの違い)であることを示す。だから「変換を 22 回かけると (ほぼ)元に戻って反転する」:f^^(x)=2πf(x)\hat{\hat f}(x)=2\pi f(-x)。ガウス ex2/2e^{-x^2/2} が変換で不変(第5章)なのは、この 対称性の固定点だから。44 回かけると恒等——フーリエ変換は“9090^\circ 回転”のような周期 44 の作用素、という 見方もできる。

プランシュレルの定理——エネルギー保存とユニタリ性

L2L^2 の世界に移ります。ここでフーリエ変換は、パーセバル(第4章の級数版)の連続版——エネルギー保存を みたし、ヒルベルト空間 L2L^2ユニタリ作用素関数解析:内積を保つ回転)になります。

定理 プランシュレルの定理

フーリエ変換は L1L2L^1\cap L^2 上で

f(x)2dx=12πf^(ξ)2dξ\int_{-\infty}^\infty|f(x)|^2\,dx=\frac1{2\pi}\int_{-\infty}^\infty|\hat f(\xi)|^2\,d\xi

をみたし(エネルギー保存)、L2(R)L^2(\mathbb R) 全体へ一意に拡張されてユニタリ作用素になる。より一般に f,g=12πf^,g^\langle f,g\rangle=\frac1{2\pi}\langle\hat f,\hat g\rangle(パーセバル)。

証明

f,gL1L2f,g\in L^1\cap L^2 とする。反転公式と畳み込み・共役の関係から fgˉ=12πf^g^\int f\bar g=\frac1{2\pi}\int\hat f\overline{\hat g} を導く(gg の代わりに反転を使い、フビニで整理)。g=fg=f で エネルギー等式。L1L2L^1\cap L^2L2L^2稠密測度論)なので、等長作用素は L2L^2 全体へ 一意連続拡張でき(関数解析の完備性)、全射性(反転が逆を与える)と合わせてユニタリ。∎

プランシュレルの意味は深いです。フーリエ変換は L2L^2正規直交基底を取り替えるユニタリ変換——時間領域の 「位置」基底から、振動数領域の「振動数」基底への回転。関数解析のスペクトル分解の 言葉では、微分作用素 1iddx\frac1i\frac{d}{dx} を対角化する基底変換です(微分が ξ\xi 倍になる=対角化、第5章の規則1)。 エネルギーが保たれるからこそ、信号処理で「時間で測っても振動数で測っても総エネルギーは同じ」が成り立つ。

注意 L¹ と L² の役割分担

L1L^1 変換は「各点で f^(ξ)\hat f(\xi) が積分で定義でき、連続」。だが f^L1\hat f\notin L^1 で反転が繊細。L2L^2 変換は 「積分が各点収束するとは限らない」(L2L^2 極限として定義)が、エネルギー保存・ユニタリ・反転が完璧。実用では 両者を行き来する——L1L^1 で具体計算し、L2L^2 で理論を回す。この二枚看板がフーリエ変換の扱いを支える。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 反転公式は f^L1\hat f\in L^1 が要る(素朴には)。 一般の fL1f\in L^1 では逆変換積分が収束せず、正則化(ガウス)や L2L^2 の枠で意味づける。
  • プランシュレルの L2L^2 変換は各点の積分でない。 L1L2L^1\cap L^2 で定義して L2L^2 極限で拡張する。f^(ξ)\hat f(\xi) を 「その点の積分値」と思い込まない。
  • エネルギー保存の 2π2\pi は規約依存。 規約を対称形(12π\frac1{\sqrt{2\pi}} を両側に)にすると 2π2\pi が消えて 完全な等長になる。本質は同じ。
  • ユニタリ=内積(エネルギー)を保つ回転。 関数解析の意味。だから情報を失わず往復 できる。

この章のまとめ

  • 反転公式 f(x)=12πf^(ξ)eiξxdξf(x)=\frac1{2\pi}\int\hat f(\xi)e^{i\xi x}d\xi:スペクトルから関数を復元。証明はガウス正則化→近似単位元。fff^\hat f は同じ情報の二表現(時間領域と振動数領域)。
  • プランシュレルの定理:フーリエ変換は L2L^2 上でエネルギーを保存し、ユニタリ作用素関数解析)。パーセバル f,g=12πf^,g^\langle f,g\rangle=\frac1{2\pi}\langle\hat f,\hat g\rangle。時間↔振動数の基底回転。
  • L1L^1(各点・具体計算)と L2L^2(エネルギー・理論)の二枚看板で変換を扱う。
  • 変換の理論が完成した。次章では、変換が暴けない“原理的な限界”——時間と振動数は同時に絞れないという不確定性原理を見ます。

次章では、ガウス関数を通して、時間局在と振動数局在のトレードオフ——不確定性原理を定量的に捉えます。