数学の作り方 How to make Mathematics

第2章 レヴィ–チヴィタ接続

計量が「微分の仕方」を選ぶ

微分幾何学で、曲がった空間でベクトル場を微分するには接続(共変微分 \nabla)が 必要で、しかも接続は多様体に別途与える構造だと学びました。ところが——リーマン計量があると、接続が ただ一つ自然に決まる。これがリーマン幾何学の基本定理で、この分野を「計量だけから幾何が立ち上がる」 自己完結した世界にします。

どんな接続を選ぶべきか。二つの自然な要求があります。(1) 平行移動が長さと角度を保つ(計量と両立)—— せっかく入れたものさしを、運んでも壊さない。(2) 捩れがない——「ねじれずにまっすぐ」運ぶ。驚くべきことに、 この二条件をみたす接続は存在してただ一つ。計量が微分の仕方を完全に選び出すのです。

リーマン計量があれば、計量両立+捩れなしの接続がただ一つ定まる(レヴィ–チヴィタ接続)。計量だけで微分が決まる。

二つの条件

定義 計量両立・捩れなし

アフィン接続 \nabla微分幾何第10章)が

  • 計量と両立:任意のベクトル場 X,Y,ZX,Y,ZZg(X,Y)=g(ZX,Y)+g(X,ZY)Z\,g(X,Y)=g(\nabla_Z X,Y)+g(X,\nabla_Z Y)g=0\nabla g=0。平行移動が内積を保つことと同値)。
  • 捩れなしXYYX=[X,Y]\nabla_X Y-\nabla_Y X=[X,Y]リー括弧)。座標では Γijk=Γjik\Gamma^k_{ij}=\Gamma^k_{ji}(対称)。

計量両立は「g(X,Y)g(X,Y) を微分するとき、\nabla がライプニッツ則を内積に対してみたす」——運んでも長さ・角度が 変わらない。捩れなしは「Γijk\Gamma^k_{ij} が下二つの添字で対称」——微分幾何の測地線が 素直に振る舞う条件です。

リーマン幾何学の基本定理

定理 リーマン幾何学の基本定理(レヴィ–チヴィタ)

リーマン多様体 (M,g)(M,g) には、計量と両立し捩れのないアフィン接続 \nablaただ一つ存在する。これを レヴィ–チヴィタ接続という。

証明

一意性(と公式の導出):計量両立を X,Y,ZX,Y,Z の三通りに巡回して書く:

Xg(Y,Z)=g(XY,Z)+g(Y,XZ),Yg(Z,X)=g(YZ,X)+g(Z,YX),Zg(X,Y)=g(ZX,Y)+g(X,ZY).\begin{aligned} X\,g(Y,Z)&=g(\nabla_X Y,Z)+g(Y,\nabla_X Z),\\ Y\,g(Z,X)&=g(\nabla_Y Z,X)+g(Z,\nabla_Y X),\\ Z\,g(X,Y)&=g(\nabla_Z X,Y)+g(X,\nabla_Z Y). \end{aligned}

第一+第二−第三を作り、捩れなし XYYX=[X,Y]\nabla_X Y-\nabla_Y X=[X,Y](三箇所)で整理すると、右辺に XY\nabla_X Y だけが 残り、コズュルの公式

2g(XY,Z)=Xg(Y,Z)+Yg(Z,X)Zg(X,Y)+g([X,Y],Z)g([Y,Z],X)+g([Z,X],Y)2\,g(\nabla_X Y,Z)=X g(Y,Z)+Y g(Z,X)-Z g(X,Y)+g([X,Y],Z)-g([Y,Z],X)+g([Z,X],Y)

を得る。右辺は gg と括弧だけで書けており、ZZ が任意で gg が正定値(非退化)だから XY\nabla_X Y一意に 決まる存在:この式で XY\nabla_X Y を定義すれば、両立と捩れなしをみたすことが逆にたどって確認できる。∎

証明の心臓は「計量両立を三通り巡回して足し引きし、捩れなしで括弧に組み替える」——すると XY\nabla_X Ygg と括弧だけで表せてしまう(コズュルの公式)。gg が非退化(正定値)だからこそ、左辺の g(XY,Z)g(\nabla_XY,Z) から XY\nabla_XY が一意に読み取れる。計量の正定値性が、接続の一意性を生むのです。

クリストッフェル記号——計量で書き下す

コズュルの公式を座標基底 i\partial_i[i,j]=0[\partial_i,\partial_j]=0)に当てると、接続係数(クリストッフェル記号)が 計量の微分だけで書けます。これが実計算の中心公式です。

定理 クリストッフェル記号の公式

座標基底で ij=kΓijkk\nabla_{\partial_i}\partial_j=\sum_k\Gamma^k_{ij}\partial_k とすると

Γijk=12lgkl(igjl+jgillgij)\Gamma^k_{ij}=\frac12\sum_l g^{kl}\big(\partial_i g_{jl}+\partial_j g_{il}-\partial_l g_{ij}\big)

gklg^{kl} は逆行列 (gij)1(g_{ij})^{-1} の成分)。計量とその一階微分だけで決まる=内在的。

この公式は微分幾何第12章で予告したものの完成形です。Γijk\Gamma^k_{ij} が計量 gg の 微分だけで書けることが決定的——接続・測地線・曲率が、すべて計量だけから内在的に決まる。驚異の定理 (曲率が内在的)が、ここでは「幾何のすべてが計量に宿る」という形で一般化されます。

注意 なぜ二条件でちょうど一意なのか

接続には自由度がたくさんある(Γijk\Gamma^k_{ij}n3n^3 成分)。捩れなし(下二添字対称)で自由度が減り、計量両立で さらに縛られ、ちょうど一意になる。片方だけでは足りず、両方あって過不足なく決まる——絶妙なバランス。物理 (一般相対論)でレヴィ–チヴィタ接続を使うのは、この「計量だけから自然に決まる唯一の微分」だからこそ。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 接続は本来「別に与える」もの、計量があれば一意に決まる。 微分幾何の一般の アフィン接続は無数にあるが、計量両立+捩れなしを課すとレヴィ–チヴィタただ一つ。
  • 一意性の鍵は gg の非退化(正定値)。 コズュルの公式で g(XY,Z)g(\nabla_XY,Z) から XY\nabla_XY を読み取れるのは gg が非退化だから。
  • Γijk\Gamma^k_{ij} は計量の一階微分。 テンソルではない(座標変換で余分な項)。だが Γ\Gamma から作る曲率 (第5章)はテンソル。
  • 計量両立=平行移動が内積を保つ。 長さ・角度が運んでも不変。だから正規直交枠を平行移動しても正規直交の まま。

この章のまとめ

  • リーマン幾何学の基本定理:計量と両立し捩れのない接続——レヴィ–チヴィタ接続——がただ一つ存在。証明は計量両立を三通り巡回して捩れなしで組み替えるコズュルの公式、一意性は gg の正定値性から。
  • クリストッフェル記号 Γijk=12gkl(igjl+jgillgij)\Gamma^k_{ij}=\frac12\sum g^{kl}(\partial_i g_{jl}+\partial_j g_{il}-\partial_l g_{ij})=計量の一階微分だけ。接続・測地線・曲率がすべて計量から内在的に決まる(驚異の定理の一般化)。
  • 二条件(両立・捩れなし)でちょうど一意——過不足ないバランス。
  • 微分の仕方が決まった。次章では、この接続で「まっすぐ進む」道——測地線を定義し、最短経路との関係を見ます。

次章では、測地線を「加速度ゼロ(自己平行)」の曲線として定義し、変分としての最短性、そして測地線方程式を導きます。