数学の作り方 How to make Mathematics

第12章 べき根による可解性

20002000 年の問い——なぜ5次方程式は解けないのか

22 次方程式には解の公式 b±b24ac2a\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a} があります。33 次・44 次にも(複雑ですが)べき根による 解の公式がある。では 55 次は? 数学者は 300300 年探し続け、そしてアーベルとガロアが答えを出しました—— 一般 55 次方程式には、べき根による解の公式が存在しない。しかも「まだ見つかっていない」のではなく、 「原理的に存在しえない」ことを証明したのです。

その証明こそ、この分野の全体系が結実する瞬間です。ガロアの発見は「方程式がべき根で解ける     \iff その方程式の ガロア群が可解群(群論第11章)」。方程式論という解析的な問いが、群の構造という代数的な問いに 完全に翻訳される。そして一般 55 次方程式のガロア群は S5S_5——A5A_5 の単純性(群論第9章)ゆえに 可解でない。だから解の公式が無い。群論環論・体論のすべてが、この一点に注ぎ込まれます。

方程式がべき根で解ける     \iff ガロア群が可解群。一般 55 次のガロア群は S5S_5(非可解)ゆえ解の公式が無い(アーベル–ルフィニ)。

べき根拡大と可解性

「べき根で解ける」を、体の拡大の言葉で厳密にします。an\sqrt[n]a を添加する操作の積み重ねです。

定義 べき根拡大・べき根で可解

拡大 L/KL/Kべき根拡大とは、塔 K=K0K1Km=L,Ki+1=Ki(αi), αiniKiK=K_0\subseteq K_1\subseteq\cdots\subseteq K_m=L,\qquad K_{i+1}=K_i(\alpha_i),\ \alpha_i^{n_i}\in K_i (各段で「あるべき根 αi=ni\alpha_i=\sqrt[n_i]{\cdot}」を添加)で得られること。多項式 ff の根が、KK からのべき根拡大の中にあるとき、 ffべき根で可解という(=根が四則とべき根で書ける)。

22 次の解の公式は「b24ac\sqrt{b^2-4ac} を添加」= 11 段のべき根拡大。3,43,4 次も同様に、べき根を段階的に添加した塔で 根が表せます。問題は、この「べき根の塔」に根が入るかどうか——それを判定するのがガロア群の可解性です。

主定理:べき根可解 ⇔ ガロア群が可解

橋渡しの核心は、「11 のべき根を含む体では、べき根拡大     \iff 巡回拡大」という対応です(クンマー理論)。

補題 巡回拡大とべき根(クンマー)

KK11 の原始 nn 乗根を含み、charKn\operatorname{char}K\nmid n とする。このとき: (a)aKa\in K に対し K(an)/KK(\sqrt[n]a)/K は巡回拡大で次数は nn を割る。 (b)逆に、[L:K]=n[L:K]=n の巡回ガロア拡大は L=K(an)L=K(\sqrt[n]a)(あるべき根の添加)で書ける。

証明

(a)ζ\zeta を原始 nn 乗根とすると an\sqrt[n]a の共役は ζkan\zeta^k\sqrt[n]a で全て K(an)K(\sqrt[n]a) 内(ζK\zeta\in K)=正規・分離、ガロア。 σGal\sigma\in\operatorname{Gal}anζkσan\sqrt[n]a\mapsto\zeta^{k_\sigma}\sqrt[n]aσζkσ\sigma\mapsto\zeta^{k_\sigma} が単射準同型で像は ζ\langle\zeta\rangle の部分群=巡回。 (b)生成元 σ\sigma(位数 nn)に対しラグランジュのリゾルベント α=i=0n1ζiσi(θ)\alpha=\sum_{i=0}^{n-1}\zeta^{-i}\sigma^i(\theta)(適当な θ\theta)を作ると σ(α)=ζα\sigma(\alpha)=\zeta\alpha、ゆえ σ(αn)=αn\sigma(\alpha^n)=\alpha^na:=αnKa:=\alpha^n\in K、かつ αK\alpha\notin K ゆえ L=K(α)=K(an)L=K(\alpha)=K(\sqrt[n]a)。∎

このクンマーの対応を、可解群の組成列(群論第11章:可解     \iff 組成因子がすべて Zp\mathbb Z_p)に沿って 積み重ねると、主定理が出ます。

定理 ガロアの可解性定理

標数 00 の体 KK 上の多項式 ff について、ff の分解体を LL、ガロア群を G=Gal(L/K)G=\operatorname{Gal}(L/K) とすると、 f がべき根で可解      G が可解群.f\ \text{がべき根で可解}\ \iff\ G\ \text{が可解群}.

証明

\Leftarrow の要点。)GG 可解なら組成列 G=G0G1{e}G=G_0\triangleright G_1\triangleright\cdots\triangleright\{e\} で各 Gi/Gi+1ZpiG_i/G_{i+1}\cong\mathbb Z_{p_i}(巡回)。 まず必要な 11 のべき根を KK に添加(これ自体アーベル=可解拡大)。すると基本定理で各段が巡回拡大に対応し、 クンマーの補題(b)より各段はべき根の添加。ゆえ LLKK からのべき根拡大に含まれ、ff はべき根で可解。 (\Rightarrow の要点。)ff べき根可解なら LL を含むべき根拡大の塔がある。11 のべき根を添加して正規化すると、各段が巡回拡大の ガロアな塔になり、基本定理で GG(の商)が巡回群による正規列をもつ=可解。∎

「べき根の塔 ↔ 巡回拡大の塔 ↔ 可解群の組成列」——基本定理(体 ↔ 群)とクンマー(べき根 ↔ 巡回)と 可解群の定義(群論第11章)が三重に噛み合う、壮麗な同値です。あとは「一般 55 次のガロア群が可解でない」を 言えば決着します。

アーベル–ルフィニの定理

定理 アーベル–ルフィニの定理

n5n\ge5 のとき、一般 nn 次方程式はべき根で解けない。すなわち、n5n\ge5 に対し、係数の四則とべき根で根を表す 一般的な解の公式は存在しない

証明

「一般 nn 次方程式」=係数 t1,,tnt_1,\dots,t_n を不定元とする f(x)=xnt1xn1++(1)ntnf(x)=x^n-t_1x^{n-1}+\cdots+(-1)^nt_n を、体 K=Q(t1,,tn)K=\mathbb Q(t_1,\dots,t_n) (対称式の体、環論第11章)上で考える。その分解体のガロア群は対称群 SnS_n(根 x1,,xnx_1,\dots,x_n の任意の置換が KK-自己同型を与える;tit_i は根の基本対称式で SnS_n 不変)。n5n\ge5 のとき SnS_n可解でない群論第9章AnA_n が 非可換単純、第11章:組成因子に AnA_n を含み非可解)。ガロアの可解性定理より、ff はべき根で解けない。∎

これが結論です。S5S_5 が可解でない——たった 120120 個の置換のなす群の性質——が、55 次方程式の解の公式の 不存在の、完全な理由です。逆に、n4n\le4 では SnS_n が可解(S2,S3,S4S_2,S_3,S_4 は可解、群論第11章)なので、 2,3,42,3,4 次には解の公式がある——実際、カルダノ・フェラーリの公式として知られています。

具体的な非可解 5 次方程式

一般式でなく特定の方程式でも起こる:f(x)=x56x+3Q[x]f(x)=x^5-6x+3\in\mathbb Q[x] はアイゼンシュタイン(p=3p=3)で既約、 実根が3個・虚根が2個であることから、そのガロア群は S5S_5(既約で位数 55 の元と互換をもつ ⇒ S5S_5)。ゆえ x56x+3=0x^5-6x+3=0 の根は、四則とべき根では書けない。具体的な数がべき根で表現不能なのである。

全分野の結節点

注意 ここに全てが集まる

アーベル–ルフィニの証明は、この教材の代数分野が一点に収束する場所:

  • 群論第9章A5A_5 の単純性(共役類サイズの割り算パズル)。
  • 群論第11章:可解群の定義、S5S_5 が非可解。
  • 環論第11章:対称式(ガロア群が SnS_n になる根拠)。
  • 環論第10章:アイゼンシュタイン(具体例の既約性)。
  • 体論第9章:ガロア対応(べき根の塔 ↔ 可解列)。

55 次方程式が解けない」という一つの事実の中に、対称性・整除・分解・対応のすべてが織り込まれている。これが ガロア理論が「数学で最も美しい理論」と呼ばれる所以です。2020 歳で決闘に斃れたガロアが遺した、数学の金字塔。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 55 次方程式は解けない」ではない。 個々の 55 次方程式は数値的にも代数的にも解ける(根は存在する)。無いのは「べき根による一般の解の公式」。x52=0x^5-2=025\sqrt[5]2 で解ける。
  • 可解性はガロア群の性質。 べき根可解     \iff ガロア群が可解群。S2,S3,S4S_2,S_3,S_4 可解(公式あり)、S5S_5 非可解(公式なし)。
  • クンマー理論は 11 のべき根が要る。 べき根拡大と巡回拡大の対応には、基礎体に 11 のべき根が必要。先に円分拡大(第11章)で添加する。
  • 一般 nn 次のガロア群が SnS_n 係数を不定元にした「一般の」方程式。特定の方程式ならもっと小さい群のこともある(が S5S_5 になる具体例もある)。

この章のまとめ

  • べき根拡大(べき根を段階的に添加)に根が入るとき、方程式はべき根で可解。クンマー理論で「11 のべき根がある体では、べき根拡大     \iff 巡回拡大」。
  • ガロアの可解性定理ff がべき根で可解     \iff ガロア群が可解群。基本定理・クンマー・可解群の定義が三重に噛み合う。
  • アーベル–ルフィニ:一般 nn 次(n5n\ge5)のガロア群は SnS_n で、S5S_5 が非可解(A5A_5 単純)ゆえべき根の解の公式が存在しないn4n\le4 では SnS_n 可解で公式あり。

これで体論・ガロア理論は完結です。体の拡大から始め、正規性・分離性・ガロア対応を経て、20002000 年の難問—— 作図問題と方程式の可解性——に決着をつけました。「体の対称性を群として捉える」というガロアの発想は、 代数的整数論(類体論)・代数幾何表現論へと受け継がれ、 現代数学の背骨であり続けています。おつかれさまでした。