第10章 ストークスの定理
すべての積分定理が、この一行に集約される
微積分のベクトル解析で、3 つの積分定理——グリーン・ストークス・ガウス——を学びました。そして
それらが「内部の微分の積分 = 境界の積分」という同じ形をしていること、統一形 ∫∂Ωω=∫Ωdω が
存在することも予告しました。多様体論を登ってきた今、その統一形を証明できます。
∫Mdω=∫∂Mω
これが一般ストークスの定理。左辺は多様体 M の内部で ω を外微分して積分、右辺は境界 ∂M の上で
ω を積分。微積分の基本定理 ∫abf′=f(b)−f(a)、グリーン・ストークス・ガウスの定理は、
すべてこのたった一つの式の特別な場合です。1 次元の ∫ab から n 次元の積分定理まで、次元も対象も超えて
一つに統一される——微分幾何、いや解析学全体の到達点の一つです。「内部と境界の双対性」が、d と ∂ の間の
美しい対応として結晶します。
一般ストークスの定理 ∫Mdω=∫∂Mω。微積分の基本定理・グリーン・ストークス・ガウスをすべて統一する。
一般ストークスの定理
定理 ストークスの定理
M を向きづけ可能なコンパクトな n 次元境界付き多様体、ω を M 上の (n−1) 形式(C1)とする。∂M に
誘導される向きを入れると
∫Mdω=∫∂Mω.
(∂M=∅ なら右辺は 0:閉多様体上では ∫Mdω=0。)
証明
(要点。)1 の分割で、ω が 1 つのチャート(半空間 Hn={x1≥0})に台をもつ場合に帰着する。
ω=∑ifidx1∧⋯dxi⋯∧dxn に対し、dω を計算して重積分し、各項に
微積分の基本定理(1 変数で ∫∂ifidxi を積分)を適用する。台がコンパクトなので、境界 x1=0 からの
寄与だけが残り、内部の項は消える(境界の外で fi=0)。残った境界項が ∫∂Mω。∎
∎
証明の核心は「各チャートで微積分の基本定理を使う」こと。n 次元の壮大な定理が、本質的には
1 変数の ∫abf′=f(b)−f(a) の繰り返し。d が「内部の微分」、∂M が「境界」で、両者の積分が等しい——
外微分 d と境界 ∂ が“双対(随伴)”であることの積分版です。この一式から、ベクトル解析の
全定理が特別な場合として出ます。
すべての積分定理の統一
定理 古典的積分定理の統一
一般ストークスの定理は、次元と形式の次数に応じてベクトル解析の各定理になる:
- n=1(区間 [a,b]、ω=f は 0 形式):∫[a,b]df=∫{b}−{a}f、すなわち
∫abf′dx=f(b)−f(a)——微積分学の基本定理。
- n=2(平面領域、ω=Pdx+Qdy):∫D(∂xQ−∂yP)dxdy=∮∂DPdx+Qdy——グリーンの定理。
- n=2(空間内の曲面 S、ω= 1 形式):∫SrotF⋅dS=∮∂SF⋅dr——(古典)ストークスの定理。
- n=3(立体 V、ω= 2 形式):∫VdivFdV=∫∂VF⋅dS——ガウスの発散定理。
外微分 d が grad,rot,div を統一した(第8章)ように、ストークスの定理がそれらの積分定理を
統一します。「ω の次数を変え、次元を変えると、∫Mdω=∫∂Mω が基本定理・グリーン・ストークス・
ガウスに化ける」——微積分第12章で予告した統一が、多様体論の言葉で完全に実現しました。1 次元の
∫ab から 3 次元の発散定理まで、一つの式の姿です。
系:閉形式の積分と境界
系 閉形式の積分と境界の消滅
- 閉形式の周期:ω が閉形式(dω=0)で C=∂S(境界)なら ∫Cω=∫Sdω=0。閉形式の
「境界サイクル上の積分」は 0。
- 完全形式の閉曲線積分:ω=dη(完全)なら閉曲線 C(∂C=∅)上で ∫Cω=∫Cdη=∫∂Cη=0。
「閉形式を境界の上で積分すると 0」「完全形式を閉曲線上で積分すると 0」——これらが、閉/完全のずれが穴を
検出する仕組みの積分的な裏づけです。閉だが完全でない形式は、「境界でない閉曲線」(穴を囲む
ループ)の上で 0 でない積分値をもつ——複素解析の ∮zdz=2πiがその典型。この
「閉形式とサイクルのペアリング」が、次章のド・ラームコホモロジーとホモロジーを結ぶ
橋になります。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- ストークスは「内部の d = 境界」。 ∫Mdω=∫∂Mω。ω は (n−1) 形式、dω が n 形式。次元と次数を合わせる。
- すべての積分定理が特別な場合。 n=1 で基本定理、n=2 でグリーン/ストークス、n=3 でガウス。統一形。
- 向きづけ可能性が前提。 積分が定義できる向きづけ可能多様体で。境界の向きは誘導向き(符号が合う)。
- 証明の核心は各チャートでの基本定理。 n 次元の定理が 1 変数の ∫f′=f(b)−f(a) の集積。
この章のまとめ
最終部は、微分形式で穴を検出する——ド・ラームコホモロジーへ進みます。