第8章 外微分
勾配・回転・発散を、一つの操作に
ベクトル解析には勾配 、回転 、発散 という つの微分がありました。そして 、 という不思議な恒等式も。これらは実は、外微分というたった一つの操作 の つの顔なのです。
外微分 は、微分形式の階数を 上げる微分。 形式(関数)に施すと勾配、 形式に施すと回転、 形式に施すと発散——次元によって に化けます。そして 等は、すべて ( を 回施すと )という一つの等式。ホモロジーの と鏡映をなす、 微分幾何の核心です。この と が、次章の積分・ストークスの定理、そして ド・ラームコホモロジー(穴を微分形式で検出する)の土台になります。
外微分 は階数を上げる微分。 を統一。 が 等の正体。
外微分
定義 外微分
外微分は「係数関数を微分して を一つ増やす」操作。チャートに依らず定まり(座標変換で不変)、多様体上の 自然な微分です。決定的な性質が です。
定理 d² = 0
(すべての形式 )。
証明
形式 について、。 (シュワルツの定理、偏微分の順序交換)で対称、 で反対称ゆえ、和が打ち消し合って 。 一般の形式へはライプニッツ則で拡張。∎
の証明の心は「偏微分は対称(シュワルツ)、ウェッジは反対称、掛けると消える」。この一行が、 ベクトル解析の つの恒等式を統一します。
例 ℝ³ で grad・rot・div を統一
で、第7章の対応(関数 ↔ 形式、ベクトル場 ↔ 形式や 形式)のもとで:
- ( 形式 → 形式)= 。
- (→ 形式)= 。
- (→ 形式)= 。
そして は: = 、 = 。 ベクトル解析の つの微分と つの恒等式が、 と に完全に統一される。
閉形式と完全形式
から、 種類の重要な形式が生まれます。次章以降の主役です。
定義 閉形式・完全形式
を満たす形式 を閉形式、 と書ける形式を完全形式という。 より、完全形式は必ず閉形式()。逆(閉 ⇒ 完全)は一般には成り立たない——その差が ド・ラームコホモロジーで、多様体の穴を検出する。
「完全 ⇒ 閉」は常に真()ですが、逆「閉 ⇒ 完全」は空間に穴があると崩れます。この閉だが完全でない形式が 穴の存在を教える——ベクトル解析で「 だが保存場でない」(穴あき領域)と同じ現象です。この 「閉/完全のずれ」を測るのがド・ラームコホモロジー(第11章)。まさにホモロジーの「サイクル/ 境界のずれ」の双対です。
引き戻し
写像で微分形式を「引き戻す」操作を定めます。積分の変数変換の一般化で、 と可換なのが重要です。
定義 引き戻し
なめらかな写像 と 上の 形式 に対し、引き戻し ( 上の 形式)を、 接ベクトルを微分 で押し出して に渡すことで定める:。
定理 引き戻しの性質
、そして** は外微分と可換**:。
「 が と可換」は、外微分が座標・写像に依らない自然な操作であることの現れです。この可換性が、積分の 変数変換(引き戻して積分)と、ド・ラームコホモロジーの関手性(写像がコホモロジーの 準同型を誘導)を支えます。ベクトル場の押し出し(第4章)と違い、微分形式は引き戻し(向きが逆)が 自然——余接的な量だからです。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- は階数を 上げる()。 ホモロジーの (下げる)と逆向き、コホモロジーの と同じ。
- はシュワルツの定理(偏微分の対称)+ウェッジの反対称。 、 の統一。
- 完全 ⇒ 閉は常に真、逆は穴があると偽。 そのずれが穴を検出。「 だが保存場でない」の一般化。
- 微分形式は引き戻し(、共変・向き逆)が自然。 ベクトル場は押し出し(、反変)。 は と可換。
この章のまとめ
- 外微分 (階数を上げる、、ライプニッツ則)は で を統一。
- (シュワルツの対称+ウェッジの反対称)= の正体。ホモロジーの の双対。
- 完全 ⇒ 閉(常に真)、逆は穴があると偽(ド・ラームで検出)。引き戻し は と可換で、変数変換・関手性を支える。
次章は、微分形式を実際に積分するための準備——向き付けと多様体上の積分を扱います。